行動経済学

【 -第65回- 2014年4月28日号】


先日、NHKの「お金と感情と意思決定の白熱教室」という番組を見ました。
日常の奇妙な行動や心理パターンを行動経済学により解明する番組です。

番組を見ながら、行動経済学がピッタリと当てはまるような不動産取引が過去にあった事を思い出しました。

プロスペクト理論(prospect theory)という有名な行動経済理論があります。

例えば、1万円減給の場合に感じるショックやダメージの大きさは、1万円昇給の場合に感じる喜びの大きさに比べて、同じ1万円であるのに、かなり違いがあるように感じるというものです。

利得に比べて損失が与える心理的影響は大きく認知されています。
経済学的には、同じ1万円であれば、プラスになるときの喜びの大きさと、マイナスになるときのショックの大きさは同じになるのが合理的であるということだそうです。


以前、道路の拡幅予定地にある建物(4つの店舗が入居)を管理していました。
その建物の所有者は4人の賃借人にそれぞれ賃借していました。

道路の拡張計画の決定は昭和41年。拡張用地の交渉に横浜市の担当者が最初に建物の所有者に売買交渉に訪れてからすでに20年近くが経過していました。
そして、各店舗の契約者への店舗の移動と営業補償金などの交渉が始まってからもすでに10年が経ちました。

建物の所有者が売却を承諾しても、各店舗の契約者が承諾しないと取引が成立しません。
所有者と各店舗の契約者がほぼ同時に売却と移転を同意する必要がありました。

建物の所有者は横浜市との売買にすでに同意しています。
ところが、各店舗の契約者達はこの建物で長く営業し、お客様もいます。
横浜市の担当者が交渉に来ても、門前払い状態でした。
もちろん、横浜市から具体的な金額の提示もありました。
同意を引き延ばせば物価の上昇にともなって、補償額などもあがるつもりだったのかもしれません。
ところが、バブル崩壊後デフレ状態が続いて補償額の上昇も怪しくなってきました。

そして2008年にリーマン・ショックです。

翌年、横浜市の担当者が各店舗の契約者達に営業補償金の提示に来た際に、今回の提示以降はおそらく、営業補償金の査定が厳しくなるような事を言って帰ったそうです。

「利益に比べて損失が与える心理的影響は大きい」

各店舗の契約者達はすぐに横浜市と移転の同意をしました。
もちろん、移転の同意には提示額の損失以外にも、景気の悪化、契約者の年齢的な問題などがあったかもしれません。

しかし、私にはそれまでの交渉の経緯から考えると、この行動経済学の心理状態が交渉成立の一番の要因だと思っています。


とは言うものの、一般的に交渉が難しいのは、行動経済学に基づかず、そこに感情が大きく入ってくるってことです。

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