30年前の思い出

【 -第51回- 2013年9月24日号】


先日、ある不動産会社の社長と食事をする機会がありました。

社長は2代目で、社長のお父さんが40年ほど前に会社を興しました。

私の実家は鳶職で、先代の社長からは、建売住宅の基礎工事や足場工事を依頼されていました。
そんな昔からの付き合いが、その不動産会社とはありました。

昭和の当時としても、珍しかったのですが、私は小学生の高学年には、学校が休みの日には工事現場に連れて行かれて、仕事を手伝っていました。
中学、高校時代も部活動が休みの日には工事現場です。
現在では、工事現場の近隣者が警察に通報して、父親は逮捕されるかもしれません(笑)

とにかく、「そんな日々が嫌で嫌でしょうがなかった」と不動産会社の現社長と話しをしていたのですが、そこで、昔の思い出が蘇ってきました。

私が高校生の時、部活も休みで、いつものように工事現場に連れて行かれました。
その日は、上棟式で柱やベニヤ板などを1日中運んでいました。
当時はレッカーで木材を運ぶことがなく、人力で運んでいたのです。

夕方には建売住宅の購入者がやってきて、現場で小さな酒盛りが始まります。
まずは、施主さんの紹介。
夫婦で嬉しそうに挨拶を行っていました。
そして、私の父親がお祝いの木遣り(きやり)唄を歌って、乾杯です。
当時は飲酒運転も厳しくなく、施主さんも職人達も皆、お酒を飲んでいました。

そこに、普段は見かけない不動産会社の営業担当者がやってきました。
施主さんの担当営業です。

一緒にお酒を飲み始めて、30分くらい経過したころから、営業担当者の様子がおかしくなってきました。
とにかく、よくしゃべるのです。
そのうちに、「こんな、小さな家にどうやって住むんだ」、「こんな安い家、ろくなもんじゃない」などと、身も凍るような暴言を吐き出したのです。

私も高校生ながら、お祝いの楽しい雰囲気が一変していく様子がわかりました。体感温度で5℃は下がった感じです。

そのような雰囲気の中で、施主さん夫婦は怒るのではなく、ただ悲しそうな顔をしていました。

その場で施主さん夫婦が怒った方が、まだ、よかったかもしれません。
それからはしんみりとした上棟式になりました。
最後に手締めを行い、解散です。
とにかく、後味の悪い上棟式でした。

数多くの上棟式に出席していますが、未だに、あの上棟式を上回る場面に遭遇していません。

この話を現社長に今となっては笑い話と思って話したのですが、
現社長としては、笑い話としては済みません。
「営業の名前を覚えていますか」「どんな容姿でしたか」などと、犯人の追求が始まりました。

当時の営業職は、ほとんど退職しているでしょうし、すでに40歳を超えているように見えましたから、生きているかどうかもわかりません。

確かに私にとっては、最悪の上棟式の思い出ですみますが、もし、当社のスタッフが同じような振る舞いをしたなら、即、懲戒免職ものかもしれません。

はたして、あの酒乱の営業担当者は、その後、施主さん夫婦とどのようにお付き合いをしたのでしょうか。

怪談話よりよっぽど怖い話です。


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