評論家と実践者 つづき

【 -第67回- 2014年5月26日号】



前回のコラムは、車が好きで、30年以上車雑誌を購読してきたのに、最近は書店で立読みすらしなくなった。
車雑誌に興味がわかなくなってきた理由の一つに車雑誌の記事が昔から変わらず、そのうえ車の魅力を紹介したいのか、自分の立場や知識をひけらかしたいのか、わからないような記事が多くなったから。

そんな車雑誌全般に対する不信感がつのっている中、現行日産GTRの元開発者水野和敏さんの車評論を見てびっくりした。

それは、にわか評論家が真っ青になること間違いないような、自ら車を開発してきた実践者からみた車評論だったからです。
今回のコラムは前回からの引き続きで、私が驚いた水野和敏さんの評論についてお話したいと思います。

私の手元に2枚のDVDがあります。
1枚は某社の車雑誌の付録で2013年に発売された新車の中で特に素晴らしかった車に対して数名が試乗し、感想を述べています。
もう1枚も車雑誌の付録ですが、GTR開発者水野和敏さんが各国を代表する車に試乗して感想を述べています。
2枚のDVDそれぞれにメルセデス・ベンツの新型Sクラスについての車評が収録されているので、その冒頭部分だけ書きおこしてみます。

某社のスタッフによる感想
まずは、新電子制御システムの説明。車の前側に付いているカメラが路面の起伏を予想し乗り心地の向上を助ける新たなシステムによって、よりコンフォートな乗り心地になっている。
ステアリングフィール(ハンドルから感じる路面などの状況)はよく、緊急回避時における車の挙動も電子制御によって邪魔されている感じがしない。
あくまで、電子制御システムは黒子に徹している感じがする。

水野和敏さんの感想
試乗する前に、車の前側を指差しながら、グリルとフードの高さの違いや隙間が空力性能を向上させていることを説明。高さが同じで隙間がなければ、空気の渦が生じて音の発生や最高速度も3kmくらい低くなるはず。
そして、車に乗って10m程走らせてストップ。エンジンを止めて、スイッチだけオンの状態でハンドルを左右に回しながら、ハンドルにつながるブッシュやステアリングラックがすさまじい精度で組み合わされているのがわかる。車が止まっている状態でも車の作り込みの精度がわかる部分もあるのだ。
次に車を走らせながら、前2本のタイアと後ろ2本のタイアの反応が同一で前と後ろの剛性のバランスがとれていることがわかるね。
だから、スピードを出しながらハンドルを急にきって、停まっても後ろのタイアが浮かなくて、緊急回避ができるのだ。どのような状態でも4つのタイアが地面とコンタクトしているから限界安全域が高い。
電子制御によって安全回避の限界を上げているということとは関係なく、元の限界レベルが高いよね。

2つの感想の中で同じ事を言っている部分があります。
某社スタッフ → ステアリングフィールがいい。
水野和敏さん → 機械の組み合わせの精度がいい。

某社スタッフ → 緊急回避時における車の挙動も電子制御によって邪魔されている感じがしない。
水野和敏さん → 前と後ろの剛性のバランスがとれているから、どのような状態でも4つのタイアが地面とコンタクトして限界安全域が高い。

まさに、素人とプロ。
両者とも感じていることは同じでも、なぜそのように感じるのか理論的に説明できるのがプロです。
評論家の限界と車作りの実践者との違いがはっきりとわかってしまいます。

さて、前回と今回のコラムで私が何を言いたいかと言いますと、私たちは残念な事に評論家目線で住宅を説明してしまう機会が多いということです。
例えば、無垢材のフローリングについて、「踏みご心地が違います」「環境に配慮してます」などと主観的な部分だけ話せば、評論家的な説明です。
無垢材と合板材の違いを設置後のフローリングの温度、フローリングから10cm上の室温、1m上の室温の違いから説明し、また、木材の切り出し工程や方法の違いから材質を語れば、これは実践者的な説明となります。

実際に私たちの設計部のスタッフは日々設計し現場で戦う実践者。
このような説明をしています(だろう)。

われわれ横浜空間スタッフは評論家ではなく実践者であるように日々努力をしていきたいと思っています。

あらためて、2枚の車評DVDを見ながら“常に実践者であるべし”と再認識しました。

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